※ケガをした部位の写真が出てきますので苦手な方は閲覧にご注意ください。

<執筆>

柳原獣医師

柳原正史 獣医師
1987年生
緊急症例の多く集まる2次病院にて長く研鑽を積む。
最近では幹細胞上清液やPRPゲルを用いた再生医療にも取り組んでいる。

はじめに

重度の皮膚損傷症例に対する外科的処置の一環として、当院では一部症例において幹細胞上清液を併用し、術後の経過を観察しています。本稿では、幹細胞上清液を局所的に使用した2例の経過をまとめ、観察された所見についてケースレポートとして報告いたします。なお、本報告はあくまで臨床経過の記録であり、特定の効果や因果関係を保証するものではありません。

症例①:16歳 MIX犬の前肢広範囲皮膚損傷

皮膚欠損を起こした高齢のMIX犬

交通事故により前腕の約半分に及ぶ皮膚欠損が認められた症例。断脚も選択肢に入る状況でしたが、可能な限りの温存を目指して皮膚再建術を実施しました。術中には、縫合部位周辺に幹細胞上清液を少量ずつ局所注射し、術後の経過を観察しました。また経過観察期間は3-7日間隔で幹細胞上清液を使用しています。

手術前:壊死部位あり、温存希望により再建手術へ。

手術時:皮膚縫合を行い、縫合部周辺に幹細胞上清液を少量ずつ局所投与。排液管理のためドレーンを設置。


重度の不皮膚損傷のような症例に対して、手術時に幹細胞上清液を患部周辺に死腔を避けて皮内投与を実施しております。

インスリン用のシリンジを使用し、患部周辺に0.05-0.1mlずつくらいを10か所くらいに分けて局所投与しています。

局所投与は手術実施時だけにしており、その後は皮下注射にて投与しています。

三日目です。

7日目です。

テンションが強くかかっていた部分は一部離開がありましたが、黄色の丸の色調の悪い部分もなんとか保たれています。メッシュ部位はほとんど上皮化が完了しております。

11日目です。テンションが強く離開した部分は肉芽組織が増殖しております。また黄色の丸の色調の悪かった部分は当初脱落壊死を予想していましたが、脱落壊死することなく、縫合部の離開もなく治癒してくれています。

21目日です。裂傷部は完全に治療完了し、テンションが強くかかり離開してしまった部分の肉芽組織が残るのみとなりました。


28日目です。肉芽組織もわずかとなったため、治療完了としました。16歳という年齢と損傷が広範囲に及んでしまっていたことから温存できない可能性もありそうでしたが、離開のリスクが高かった部位も、肉芽組織の増殖が見られ、結果的に追加処置なしで治癒に至ったことが記録されています。

症例②:8歳 柴犬の手部重度損傷

車に巻き込まれたことにより、前足の皮膚が大きく剥がれてしまった症例です。感染所見もあり、手術時には第4指の切除も行いました。皮膚縫合とあわせて幹細胞上清液の局所投与を実施。術後はテンションがかかった部位の壊死が懸念されましたが、再手術は実施せずに経過観察を継続し、4週目には皮膚が再生し、無事歩行も可能となりました。

受傷後写真

手術中写真

術後の写真です。なんとか皮膚を縫合しましたが、赤丸の部分はかなりテンションが強く、一度剥がれてしまっている皮膚なので血流に乏しく、離開や脱落壊死の可能性が高いと考えておりました。手術時に第4指は感染が強く温存不可と判断し、切除しました。

今回も、排液が多いと予測し、ドレーンを設置しております。

三日目です。

縫合部に近い皮膚の色調の悪化が認められ、脱落壊死してくる可能性が高いと感じておりました。

8日目です。

縫合部に近い皮膚の色調はやはり悪いままで脱落壊死の可能性は高いと感じておりましたが、この時点ではまだ皮膚は接着されておりました。

11日目です。

脱落壊死を危惧していた部位もなんとか離開せず、良好に推移しています。

18日目です。色調が悪かった部位は色素沈着こそ残りましたが、もんだいなく上皮化しておりました。この時点で抜糸を終了しています。

28日目です。8歳というシニアの柴犬でしたが皮膚の上皮化も問題なく進み、再手術は実施せずに経過観察を継続し、最終的に4週間で組織の閉鎖傾向が確認されました。大きなハンディキャップも残らずまた歩くことができるようになりました。


考察とまとめ

今回の2症例では、いずれも高齢かつ重度の皮膚損傷でしたが、術後の経過観察において比較的短期間での組織の閉鎖傾向が確認されました。幹細胞上清液の補助的な使用が行われた症例ですが、これによる影響の程度や有用性については明確な因果関係は確認されておらず、すべての症例において同様の結果が得られるわけではありません。

おわりに

重度の皮膚損傷治療では、外科的処置・感染対策・創傷管理が基本です。そのうえで、当施設で実施した幹細胞上清液を補助的に導入したケースレポートを共有しました。当施設では今後も、安全性と科学的根拠に配慮しながら、個々の症例に最適な治療方針の検討を行ってまいります。

【ご注意】

本資料は、当院における臨床上の工夫や観察結果を共有するものであり、特定の製品や成分の効果を保証するものではありません。また、幹細胞上清液は医薬品や再生医療等製品には該当せず、使用に際しては獣医師の判断と責任に基づき、慎重な検討が必要です。

お問い合わせについて

本報告に関する内容は、あくまで研究的な知見共有の一環であります。さらに詳細な情報をご希望の獣医師・医療関係者の方は、別途お問い合わせください。必要に応じて、観察記録等の提供が可能です。