幹細胞上清液の使用に関する研究的知見の紹介
<執筆>

柳原正史 獣医師
1987年生
緊急症例の多く集まる2次病院にて長く研鑽を積む。
最近では幹細胞上清液やPRPゲルを用いた再生医療にも取り組んでいる。
経緯
本稿では、獣医療における補助的なアプローチとして注目されている「幹細胞上清液」について、筆者の臨床経験を踏まえて紹介いたします。
私はこれまで、自家脂肪幹細胞を用いた再生医療に携わってきました。幹細胞療法は多くの症例で良好な経過を示すことがありましたが、培養や管理には高い専門性と労力を要し、日常診療と並行して行うには現実的なハードルもありました。
近年は、培養済み幹細胞製剤(他家幹細胞)も流通するようになり利便性は向上していますが、高価であり、すべての症例に容易に適応できるとは言えません。そうした中、幹細胞上清液については、細胞由来因子の研究が進む中で、獣医療領域でもその研究的応用可能性に注目が集まりつつあります。
幹細胞上清液とは?
幹細胞上清液とは、ヒトの幹細胞を培養する際に得られる培養液の上澄み部分を指します。
この液体には、細胞から分泌されるさまざまなタンパク質や因子が含まれていることが報告されており、研究分野において注目されている素材のひとつです。
元来、幹細胞療法は「幹細胞が組織に分化して効果を発揮する」と考えられていましたが、近年は「分化ではなく、幹細胞が分泌する因子の作用が中心」というパラダイムシフトが進んでいます。こうした考えを背景に、上清液の有用性が検討されるようになりました。
使用方法(臨床的な運用の一例)
上清液の使用方法は、症例により異なりますが、基本的には皮下注射による使用が一般的です。手術症例では、手術時に患部へ局所投与する方法も併用されることがあります。
投与スケジュールについては、初期に週2回、その後は症状の変化に応じて間隔を延ばすなど、個別に調整されることが多いです。
保管方法
通常の家庭用冷凍庫で1年間の凍結保存が可能です。-80°のディープフリーザーでは永久保存が可能です。使用時に溶かして、局所投与や皮下注射にて投与します。
幹細胞上清液に関する観察記録(当施設における検討例)
当施設では、幹細胞上清液に含まれる細胞由来因子に着目し、複数の症例において反応の経過を観察する取り組みを行ってきました。以下は、これまでに得られた記録の一部であり、個体の状態変化に関する記録としてまとめたものです。
なお、本記録はすべて獣医師の判断に基づいて行われたものであり、効果・有効性を示すものではありません。
神経症状を呈した症例における経過記録
椎間板疾患や脊椎変性、馬尾部の異常が疑われた犬の一部症例において、幹細胞上清液を使用し、その後の状態変化を観察しました。
術後の管理期間中に、歩行の様子、尾の可動性、活動性などの変化が飼い主より報告され、日常生活における行動の一部に変化が見られたという記録が残されています。
また、慢性的な神経症状を有する症例において、数週間ごとの使用間隔で幹細胞上清液を使用し、個体差はあるものの、飼い主より行動や反応に関する変化が報告される例もありました。
外科処置後の管理における活用記録
手術後の創部管理や創傷の保護を目的とした一部の症例において、幹細胞上清液を用いた経過観察を行った例があります。
たとえば、皮膚に欠損があった症例や、消化管手術を受けた動物に対して、他の処置と併用しながら幹細胞上清液を使用し、一定期間の様子を記録しました。
観察中には、創部の清潔さの維持や、皮膚・被毛の状態に変化が見られたと記録されたケースもあります。
また、骨折の手術を受けた動物に対し、PRP(多血小板血漿)と幹細胞上清液を併用して患部に使用した例では、経過中に行動量や触れたときの反応に変化が見られたという記録も残されています。
【ご注意】
本稿は臨床経験に基づく情報の共有を目的としており、効果や結果を保証するものではありません。
幹細胞上清液は医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく医薬品としての承認を受けておらず、使用は獣医師の責任において判断されるべきものです。
また、再生医療等製品にも該当しないため、その取り扱いや情報提供においては、動物医療広告ガイドライン等の関連規制に留意する必要があります。
お問い合わせについて
本報告に関する内容は、あくまで研究的な知見共有の一環であります。さらに詳細な情報をご希望の獣医師・医療関係者の方は、別途お問い合わせください。必要に応じて、観察記録等の提供が可能です。


