柳原獣医師

柳原正史 獣医師
1987年生
緊急症例の多く集まる2次病院にて長く研鑽を積む。
最近では幹細胞上清液やPRPゲルを用いた再生医療にも取り組んでいる。

背景

近年、大型犬の高齢化に伴い、馬尾症候群(Cauda Equina Syndrome)の発症を目にする機会が増えています。
鎮痛薬、ステロイド、サプリメントなどによる内科的管理が一般的ですが、神経麻痺の改善は難しく、外科的減圧術を行っても十分な回復が得られないケースも少なくありません。

こうした中で、幹細胞上清液を補助的に使用した症例において、一定の機能的改善がみられたケースを経験しました。
ここでは2頭の大型犬における経過を報告します。

症例1

ラブラドール・レトリーバー 8歳・去勢雄・26kg

初診時所見

軽度の後肢不全麻痺を認め、歩行時にはふらつきとナックリングがみられました。
レントゲン検査ではL7〜S1領域に重度のブリッジ形成が確認され、馬尾症候群と診断しました。
これまでにNSAIDs、サプリメントを併用していましたが、改善は乏しい状況でした。

治療内容

初回投与時に幹細胞上清液1mLを静注し、以降1週間ごとに2mLを計3回投与しました。
その他の治療は行っていません。

経過

  • 初日:歩行時に明らかなふらつきとナックリング、爪の擦過音あり。
  • 1週間後:ふらつきの軽減、尾の可動性が回復傾向。
  • 2週間後:ナックリングが消失し、爪の擦過音は認められず。
  • 4週間後:元気・活動性ともに改善し、歩行はほぼ正常化。
    特記すべき副反応はなく、飼い主の満足度も非常に高い症例でした。

症例2

ドーベルマン 11歳・雌・32kg

初診時所見

後肢のふらつきとワイドベース歩行、およびバニーホッピング様の跳躍歩行を認めました。
L7〜S1領域の退行性変化から、馬尾症候群と診断しました。

治療内容

初回より幹細胞上清液2mLを静注し、以後も同量を定期的に継続投与しました。
投与間隔は初期3回を1週間ごと、その後は2〜3週間間隔で継続しました。

経過

  • 初日:著明なふらつきとバニーホッピング様歩行。
  • 1週間後:歩幅の改善、バニーホッピングが軽減。
  • 1か月後:歩行の安定化、爪の擦過音は消失傾向。
  • 2か月後以降:歩行時のふらつきほぼ消失し、活動性も良好に維持。
    副反応は特に認められず、飼い主の満足度も高い症例でした。

考察

いずれの症例も、神経症状の進行を背景とした馬尾症候群であり、一般的には改善が難しいケースです。
補助的に使用した幹細胞上清液の併用により、歩行状態や反射の改善が観察された点は興味深い結果でした。

幹細胞上清液には、複数のサイトカイン、成長因子、エクソソームなどの生理活性物質が含まれており、 これらが神経細胞周囲の微小環境(microenvironment)の恒常性維持、神経栄養因子の発現調整、および炎症反応の制御に寄与している可能性が示唆されています。
ただし、その詳細な作用機序や有効性の評価については今後の研究の蓄積が必要です。

まとめ

本報告は、馬尾症候群に対して幹細胞上清液を併用した2症例の経過記録です。
いずれも副反応がなく、歩行状態に一定の改善が観察されました。
大型犬の馬尾症候群では、飼い主による介助が困難な場合も多く、歩行機能の維持は生活の質(QOL)に直結します。
本報告が、今後の臨床応用検討の一助となれば幸いです。

免責事項

本資料は医薬品の効能効果を示すものではなく、
個別症例の臨床経過を記録したものであり、結果を保証するものではありません。
治療内容の選択・実施は、必ず主治医の判断に基づいて行われます。

お問い合わせについて

本報告に関する内容は、あくまで研究的な知見共有の一環であります。さらに詳細な情報をご希望の獣医師・医療関係者の方は、別途お問い合わせください。必要に応じて、観察記録等の提供が可能です。